第3章 水環境対策編
湖沼浄化対策の方法
湖沼の水質汚濁の主原因である富栄養化現象は、窒素・リンの流入により植物プランクトンが異常増殖発生することにより生じます。その対策として、植物プランクトンの増殖要因を抑制することが必要となります。
植物プランクトン増殖要因としては以下のようなものがあります。
・水が循環されず滞留している。
・窒素・リンが河川より流入、底泥よりの溶出により増加している。
・太陽光により光合成が活発化している。
・植物プランクトン細胞が存在する。
このうち、窒素、リン等の栄養塩類については流域から排出されてくるので、流域対策あるいは湖沼流入河川対策など湖沼に流入する前に除去するのが有効です。
光遮断、植物プランクトンの直接除去、水の滞留改善などは、湖沼内対策となります。
対策区分 |
技術区分 |
具体的技術 |
流域対策 |
点源負荷対策 |
生活排水対策、畜産排水対策、工場・産業排水対策 |
面源負荷対策 |
農業・畜産負荷対策、ノンポイント負荷対策 |
流入河川対策 |
直接浄化 |
炭素繊維
植生浄化、土壌処理 |
湖内対策 |
直接浄化 |
炭素繊維
植生利用(植生帯、ウェットランド、浮島等)
底泥対策(浚渫・覆砂)
流動制御(分割フェンス、散気装置)
酸素供給(曝気、高濃度酸素水)
薬剤の利用
生態系機能利用
直接除去(アオコ回収、殺藻装置等) |
湖沼流域対策
湖沼、ダム湖の流域から窒素、リンなどを削減する対策。
・発生源対策
下水道整備やし尿処理施設等の普及により、生活系排水の窒素・リンの削減を行うものであり、脱窒・脱リン等の高度処理も検討されています。
・排水規制
水質汚濁防止法に基づき、特定施設からの放流水規制を強化する対策。
・面源対策
農地、山林等からの流出対策として、施肥量の管理や下水道の未整備地域での雑排水対策等があります。
湖沼流入河川対策
流入河川浄化手法は、流域からの窒素、リン等の栄養塩類が湖沼・ダム湖に流入する前にて直接浄化する手法です。
湖沼・ダム湖などの流入河川における窒素・リン除去の手法は、環境に負荷をかけず、省資源、省エネルギーにて、本来の自然の能力を活用することが大切です。
●炭素繊維浄化施設
炭素繊維の大きな表面積による吸着と、付着する微生物が活性化することにより有機物分解がされます。付着する微生物は、好気性菌と嫌気性菌がバランスよく存在するため、脱窒菌などの働きにより、栄養塩類は除去されます。
湖沼・ダムへの流入河川に炭素繊維を設置する河川内直接浄化施設、あるいは河川水を流入し分離方式直接浄化施設にて処理を行います。
→炭素繊維による分離方式直接浄化施設(CFMA炭素繊維水利用研究会)
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流入河川対策による湖沼水質浄化 |
●植生浄化施設
植物プランクトンと同様に窒素やリンを必要とする高等植物に着目し、流入河川について植生による対策を行います。植生による対策では、常に河川水を浄化の対象として供給する中で行うことから、可能な植物は湿性のものが適しています。湿性の植物で一般に水草といわれるものにはヨシやマコモなどの抽水性植物、ヒシなどの浮葉植物、クロモ、カナダモ等の沈水性植物、ホテイアオイ、ウキクサ等の浮遊植物などがあります。
ヨシ原による汚濁物質の除去メカニズムは、沈殿・吸着等の物理化学的作用や、ヨシ原の生態系に関わる生物化学的作用を含む複雑なものと考えられます。
湖内直接浄化対策
●窒素・リン削減対策
湖水中の窒素・リンの削減のため、炭素繊維水質浄化材や水生植物による水中の窒素分解、リン固定、底泥の分解が効果的です。
従来よりの方法では、植物の根に栄養分として吸収させたり、底泥に含まれる栄養塩を浚渫除去するなどが行われていますが、植物の栄養塩吸収量は生育に必要な量のみであり、汚濁の進んだ水域では、必要植生面積は広大となるため効率的ではなく、浚渫工事の場合は工事費が膨大であり費用対効果は小さく、生態系破壊へも繋がり環境負荷が大きくなってしまいます。
(1)炭素繊維水質浄化材の利用
炭素繊維水質浄化材を湖沼・ダム内に設置し、直接水質浄化を行う接触材生物膜酸化法、湖水を引き込み処理を行う流入式接触曝気生物膜法が効果的です。
停滞水域の場合は、溶存酸素が不足し貧酸素状態の場合があるので、微生物を活性化するため曝気し酸素を補給すると効果が増大します。また、湖水を炭素繊維に接触させ効率的浄化を図るために、汚濁水を炭素繊維に接触させるための人工循環設備との併用が効果的です。
→炭素繊維による湖沼内直接浄化(CFMA炭素繊維水利用研究会)
(2)水生植物の利用
・湖内植生帯による浄化
・浮島による浄化
・ウェットランド
(3)底泥対策
湖底に堆積したヘドロは栄養塩を豊富に含むので溶出を防止するために除去(浚渫)したり砂で被覆する「覆砂」対策がとられています。底泥よりの有機物や栄養塩類の溶出を低減することはできますが、底泥への再堆積により再び溶出することで効果が低下し、費用対効果は少ないとみられているため、底泥の発生を抑制する対策を併せて行うことが重要です。
織物状炭素繊維水質浄化材を水底に敷設することにより底泥分解を図ることができます。
(4)流動制御
湖水表面を止水性の「分画フェンス」などで仕切り、湖沼水の流動を制御し、アオコ等植物性プランクトンの増殖を抑制する方法があります。また、散気装置で浅層曝気を行うことにより、湖水に比べて低温・高密度の流入河川水を藻類生産層より下層へ送り込み、栄養塩の供給を断って制御することもあります。
(5)薬剤の使用
バイオ剤や凝集剤を湖内に散布してリンを凝集沈殿させるものであるが、自然水域に化学物質を投入することは、生態系への影響や堆積物の増加に繋がる可能性があります。
(6)生態系機能利用
植物プランクトンを直接食べる魚種の放流や、さらにそれら魚類を捕食する魚類を減らすことによって間接的に植物プランクトンを減らす方法等が試みられています。
二枚貝などは大量の水をろ過し、水中の植物プランクトン等の有機物を餌としています。これら生物を利用した浄化方法は、食料生産という側面からも有効な方法と考えられています。
(7)酸素供給
湖沼水内に、直接酸素を供給し、溶存酸素DOを高めることにより水質浄化を図ります。酸素供給方法として、エアー曝気、微細気泡曝気、高濃度酸素水供給、オゾン発生装置などがあります。
(8)植物プランクトン(アオコ)の直接除去
湖沼内に発生した植物プランクトンを特殊船を用いて直接除去回収する方法
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アオコ回収船 |
●湖水循環による富栄養化対策
人工循環に用いる手法としてはエアー式、ポンプ式、スクリュー式、水車式等の他、取水・放流、流入等の流動エネルギーを応用するものもあります。
エアー式は、曝気効果があるため底層部でのDO補給や硫化水素等の溶出を抑制できるため多く利用されています。
湖水を循環させると藍藻類が激減して緑藻類や珪藻類に変わり、発臭藻類が消滅するため臭気問題が解決する事例が多く、底層水の酸欠状態も解消するため、鉄・マンガン・アンモニア・硫化水素等が消失します。
(1)平面的湖水循環
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水域内循環方式 |
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対岸流循環方式 |
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浅層曝気方式 |
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二層分離曝気方式 |
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深層曝気方式 |
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間欠曝気方式 |
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連続曝気方式 |
・水域内循環方式
小規模、浅水深の湖沼の場合は、水域内を平面的に循環させることにより、酸素供給と水質浄化を図ります。
炭素繊維水質浄化材を循環域に設置することにより、炭素繊維の揺れを起こし、汚濁水が微生物膜と接触し、浄化効果を増します。
・対岸流循環方式
ポンプ設備により、対岸などある程度の離れた地点に湖水を送水し循環させることにより、酸素供給と水質浄化を図ります。
炭素繊維水質浄化材を循環域に設置することにより、浄化効果を増します。
(2)底層域湖水循環
・浅層曝気方式
表水層の曝気・循環により藻類を光の届かない深水層近くへ送ることで藻類活性を低下させて増殖抑制を図る方式。
・二層分離曝気方式
表水層と深水層を別個に曝気・循環させ、藻類を光の届かない層へ送って増殖を抑制すると同時に、深水層での溶存酸素を補給する方式。
・深層曝気方式
深水層の曝気により溶存酸素を補給し、底質からリンやH2S等の溶出を抑え、H2S臭の発生防止や、藻類の増殖を抑制する方式。
・間欠曝気方式(全層循環)
吹送流等による大循環で藻類を光の届かない層に移送することにより藻類の増殖を抑制する方式。
・連続曝気方式(全層循環)
吹送流等による大循環で藻類を光の届かない層に移送ることにより、藻類の増殖を抑制する方式。
引用:「炭素繊維水利用技術設計指針 −環境水編−」(CFMA炭素繊維水利用研究会)
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